こんにちは。大石依里香です。
今回は、聖地や信仰や奇跡などのきれいなものと同時に
それにまつわる人間の醜さや残酷さなどの本質にも迫る、とても興味深い作品の感想を書きます。
私は日頃から宗教に対して「結局、物は言いよう。」という印象しか持っていないのですが、
そういった事についても更に考えさせられました。
この映画、観ました? #57
ジェシカ・ハウスナー監督 「ルルドの泉で」
★★★☆☆ 3.5点
全身麻痺で車イス生活のクリスティーヌは、数々の奇跡で知られるカトリックの巡礼地ルルドでのツアーに観光気分で参加。
なんとそこで、彼女に奇跡が起こる。
なぜ彼女が神に選ばれたのか!?
奇跡を目の当たりにした周りの人々は思いもよらない行動を取り…という、
人間の光と闇を描く宗教サスペンス。
宿泊施設の食堂へ参加者達が集まってくる様子の俯瞰ショットという、
まるで聖地ルルドに人々が吸い寄せられて集まっているかのような印象的なシーンから
この作品は始まります。
そこから1時間弱はルルドの巡礼ツアーの行程が淡々と描かれ、全体的にカメラワークも非常に少ないので
退屈に思う人もいるかもしれませんが、割とエグいテーマを表すさりげない描写が溢れているので
興味深く観ることができました。
カメラは主人公からも一定の距離を保っていて、作品を観ている側も、ルルドでそれらの出来事を目撃する
ツアー参加者みたいな感覚になるよう作られている気がします。
だから、作品を観ながら、自分だったらどう感じるのか?
どんな態度を取るのか?というような事も考えてしまうのです。
ルルドという聖地が舞台なのに、描かれるのはきれいで神秘的な部分だけではありません。
巡礼地ツアーとしての業務的でシステマチックな雰囲気や、水浴の際にシスターが普通の蛇口からコップに水を汲む様子、
奇跡に“認定”や“基準”がある感じなどは、非常に現実的で笑えました。
また、自分探しの為にボランティアとして参加している女の子が、だんだん障害を持つ巡礼者のお手伝いより
若い男性ボランティア達と仲良くする方が楽しくなっちゃう感じは、すごくありそうだわ~と思います。
意識高い系なこと語ってボランティアに参加しておきながら、結局はただの出会いの場として利用しているこういう若者、
かなりいそうですよね。
ツアー参加者の中でもとりわけ信心深い老婦人が、大きな会場で行われる神父様の説法の時に、
車イスの主人公を手伝うフリして自分の為に勝手に最前列に行ったシーンには、
なんだか、信心深さと愚かさって紙一重なんだな
と思って少しゾッとしてしまいました。
あまり信心深くはなく
観光気分で参加しているようなタイプの主人公に、後半、ある奇跡が起きます。
しかし、周りの参加者達もさぞ喜びムードになるかと思いきや、
みんな、彼女に嫉妬し、「なぜ神から選ばれたのが彼女なのか?」と疑問を抱き、
皮肉っぽいことを言ったりなど、ギスギスムードに。
信仰心の度合いや奉仕に費やした時間、必死さなどは奇跡と関係がないんだと知って戸惑い、
それを受け入れられない人が続出してしまうのです。
じわじわと空気が変わっていく描写にゾクゾクしたし、人間の醜さ、残酷さ、愚かさ、ゲンキンさなどに
言及していて大変面白く感じました。
また、奇跡が起きた人の方にも、背負わなければいけない責任や、治癒を持続させなければいけなかったり
選ばれた者として立派な人間でいなければいけないというプレッシャーがあったりして、
なんだかもう、皆が望んでいるはずなのに、奇跡なんて起きない方が平和で良いかもしれない、
という気持ちにさえなってしまいます。
聖地ルルドで、毎日のようにこういう事が起きているのかと思うと複雑な気持ちです。
作品のラストには、圧倒されてしまい、ちょっとだけ放心状態になってしまいました。
主人公の、自分に起きたことを受け入れる諦めのような表情や、それを望む周りの人々の様子など、
人間の本質や信仰の本質などを突きつけられます。
私にはけっこう衝撃的でした。
でも、信仰の裏に隠れたこういう真理を描く作品は、存在すべきだと思います。
「聖地で起きた奇跡」にまつわるリアルな人間ドラマを観て、見たくないものを突きつけられ複雑な気持ちになったり、
いろいろ考えたりしてみてください。
この内容でよくルルドでの撮影許可がおりたなあ、とも思ってしまうはずです。
ぜひ!!
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