この映画、観ました?#60「アートスクール・コンフィデンシャル」

     

    こんにちは。大石依里香です。

     

    私は、“手作り感”が大好きなのに自分自身は手先が超絶不器用なので

    美術的なことが大の苦手、という哀しい人間で、だから美術学校とか芸術家を

    目指す人達には憧れと嫉妬が入り混じるような感情があります。

     

    今回は、そんな美術学校を舞台にした青春ブラックコメディ作品の感想です。

     

    この映画、観ました? #60

     

     

     

     

    テリー・ツワイゴフ監督  「アートスクール・コンフィデンシャル」

     

    ★★★★☆  4点

    冴えない青年のジェロームは、ピカソのような世界的芸術家を目指すべく

    アートスクールへ入学するが、誰も彼の作品を評価してくれない。

     

    絵画モデルのオードリーに惹かれるも、皆から高評価を得るジョナがライバルに。

    そして、学校内で起きている連続殺人事件も絡んで物語は意外な展開に…というお話。

     

    監督と原作&脚本は、私の心の映画ベスト5に常にランクインし続けている『ゴーストワールド』の

    テリー・ツワイゴフとダニエル・クロウズ。

     

    この2人が作る作品の、イキってる奴らへの皮肉さが

    とても共感できるし大好きです。

     

    #6で『ゴーストワールド』についても書いているのでそちらも是非。

    イケてない男子だけど絵は上手い

    まゆげ極太の主人公ジェロームが作品の雰囲気に合っています。

     

    キャラは違うけどテレビ東京のドラマ『アオイホノオ』の柳楽優弥を思い出しました。

    ちなみに映画監督アンソニー・ミンゲラの息子さんとのこと。

     

    作品の冒頭からもう美術学校にいそうな「はいはい」って感じの人がたくさん出てきて面白いです。

    ビデオカメラを持つ男子、パンダのぬいぐるみを抱いた女子、なぜか裸足のロングスカート女子、スケボーで移動する男子、

    ギターケース持ち歩く男子…等々。

     

    そして、ジェロームが声をかけた女子達が

    ことごとくヤバイ女だったのには大笑いしてしまいました。

     

    情緒が異常に不安定だったり、ぬいぐるみと会話してたり、実は夫子持ちのヤリマンだったりと、

    「美術学校にこういう女いそうだわー」という感じで。

     

    無い才能を発掘するべく、専攻が決まる前に留年を繰り返す永遠の1年生・バードの存在も興味深い。

     

    アートな臭いを嗅ぎ付けてそういう場に顔を出しまくるヒロインのオードリーも割と曲者です。

    アート界のプロ彼女的な。

    そういう女っていますよね。

     

    ミュージシャンばかりいく女とか、芸人ばかりいく女とか…。自分が好きな世界に関わる手段が「男」っていう。

    リアルな感じで面白いと思いました。

     

    アートスクールの生徒達は皆、個性的な自分の作風を生み出したくて、焦ってこじらせまくっています。

    だから、内面から滲み出る個性というよりも見てすぐわかりやすい形で人と違う事をしようとしていて、

    とても痛々しいです。

     

    ただ、いじらしくて青春で可愛らしくもありますが。そして、アートスクールというのは先生達も現役でこじらせているんですね。

     

    失礼ながら、大抵はアーティストになれなかった人が先生になっているので。

    アートスクールって、そういう、色んな矛盾がはびこっている空間なのだと感じました。

     

    アートスクールのOBジミーがジェロームに言う、「画家だろ?」「あるいは絵画ファンか?」

    というセリフは胸にズシンときました。

     

    業界は違うものの、私も自分にその問いかけをする事があるのです。

     

    子供の頃からお笑いとテレビが大好きで今の仕事をしているけど、自分は放送作家の才能があるのか?、

    ただのお笑い好きなだけなんじゃないか?

     

    仕事としてやっていけるのか?…という問いは常にあります。

     

    ディレクターを辞めて放送作家に転職する際も随分悩みましたし。

    それまで笑いながらこの作品を観ていたのに、急に背筋を正してしまう瞬間でした。

     

    途中から、不思議な作風で周りから高い評価を得るジョナという男子生徒が出てきます。

     

    終盤で明かされた、彼の絵の作風の理由が

    とても面白かったです。

     

    彼の場違い感はそういう事だったのかと納得。

     

    芸術に対する評価の曖昧さというか、アート界への皮肉がたっぷりでステキです。

     

    ラストではジェロームの絵が評価され売れまくる

    という展開になるのですが、その理由も皮肉的で面白いものがあります。

     

    彼が模索していた「どうすれば有名な画家になれるのか!?」という思いへの結果があれっていう。

    芸術作品への評価は、作品そのものよりも、作者の背景(たとえそれがウソだとしても)によって変わってしまうんですね。

     

    芸術家を目指す人達がワケわかんなくなって

    こじらせても当然だと思いました。

     

    そんなひねくれたラストも大好きです。

     

     

    私は美大生ステキ男子を見たくて世界堂の画材コーナーに無駄に行ったりするのですが、

    今後は、彼らを見る目も変わりそうです。アートスクールの内幕、観てみてください。

    ぜひ!!!