こんにちは。放送作家の大石依里香です。
今回は、本木雅弘さん主演、西川美和監督の作品「永い言い訳」を
紹介します。
竹原ピストルさんが日本アカデミー賞の優秀助演男優賞を
受賞したことも話題になりました。
【ストーリー】
人気作家の幸夫は突然のバス事故で妻の夏子を失うが、夫婦間に愛情はなく、悲しむ事ができなかった。
そんなある日、同じ事故で亡くなった妻の親友の遺族・大宮と出会う。妻の死に憔悴する彼を見て、
幸夫は大宮家へ通い2人の子供の面倒を見ることを申し出て……。
最初からテーマと無関係な感想で恐縮ですが、
冒頭、本木雅弘さんと深津絵里さんの2ショットから始まるので、
1995年のフジテレビドラマ「最高の片想い」が大好きだった者としては大興奮でした。
ちなみに同ドラマの主題歌「HELLO」(福山雅治)は
当時習っていたエレクトーンの発表会で演奏させてもらいました。
すいません作品の内容の話に戻ります。
主人公の幸夫の人物描写がとても上手く、とにかく本木さんの演技が素晴らしかったです。
幸夫は、自意識過剰で気取っててこうるさくて面倒臭いうんちくじじい。
しかも妻が亡くなった時は愛人と会っていたような男です。
それなのに、憎めなくて意外と人間らしいところや愛せるところもある、っていうって感じがうまく出ていました。最高です。
妻のお葬式で読む弔辞がやたら文学的で気取っていたのにはニヤニヤしてしまったし、
陽一の子供とのやり取りも面白くてゲラゲラ笑えました。
作品のテーマだけ聞くとかなり重いけれど、笑える部分もちゃんとあって、
とてもバランスの良い作品だと思います。
どんなに身近な人が死のうと、生きている側の人には日常があって、
人と人とが接している以上、当然、笑いは存在するはずなので。
陽一とその子供達と擬似家族のように過ごす中で、幸夫がだんだん主婦らしくなっていく姿も微笑ましくて面白かったです。
しかしこの作品は、そんな擬似家族のことを単純な綺麗事のように「良いこと・感動的な姿」とするような気持ち悪い映画ではありません。
池松壮亮さん演じる幸夫のマネージャーが「逃避だ」「男にとって子育って免罪符」と言ったりなど、ちゃんと外からの冷静な目線も描かれていてホッとしました。
そして、陽一の家族と仲良くなったが故に抱くことになる、
嫉妬心や焦燥感など醜い感情も描かれています。
独身・子なしの私も、子持ちの友人の家族に1人だけ他人で混じって遊びに行く事が多々あるのですが、幸夫とはレベルが違うものの、
どれだけその家族に馴染んだとしても「家族ではない」と気付く瞬間は切なくなったりするので、気持ちは少しわかる気がしました。
(ちなみに、友人の子供達は私を“子供側”の人物だと思っているようで、幼稚園児に「ママは来てないの?」と言われたりします。)
幸夫は、妻を失ったからこそ得た陽一の家族との関係を築く中で、
妻に対する気持ちを思い出したり整理したりしていくことができました。
そして見出した答えのようなものが「人生は他者。」ということ。
これは、ずっとまともに書いていなかった小説のインスピレーションとなり、
幸夫は新作を書き上げます。
夏子が命をかけて幸夫に執筆意欲を取り戻させたかのようでもありますね。
初めて自分以外の人に興味を持って人生に向き合った彼が書いたこの小説は、
どんな内容なのでしょうか。とても読んでみたいです。
また、この作品にはある意味「怖い~」と思うようなシーンが割とあります。
幸夫が自分の名前でネット検索するシーンでは、「ネット検索のワードって、その人の本性が浮き彫りになるんだな」と思わされました。
幸夫が愛人に連絡しようとスマホを持ったら出掛けたはずの妻が戻ってきて、
慌ててスマホを机に戻して何食わぬ顔で会話するものの
画面の端でスマホのストラップがゆらゆら揺れている、というシーンも印象深かったです。
あと、冒頭で出てくる妻の最後の言葉「悪いけど、後片付けはお願いね」が
ラストシーンに効いていて、なんだか全てお見通し感があって怖い気がします。
これらに限らず、全体的に監督の鋭い目線が感じられとても面白く観ました。
鋭く、かつ優しく、丁寧に、真摯に向き合って作られた感じがとても伝わってくる作品ですので、ぜひ観てみてください。
それと、劇中に出てくるアニメ「ちゃぷちゃぷローリー」のテーマ曲がかわいくて、
観た後はしばらく歌っちゃうくらいキャッチーなので、それもお楽しみに。
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