ヒッチコックの映像テクニック

    今年、映画「ヒッチコック/トリュフォー」が公開されたり、東京で彼の無声映画9本のデジタル修正版を上映する「ヒッチコック9」が開催されたりと、現在も根強い人気を誇るヒッチコック。サスペンス映画の巨匠と言われる彼は、字幕デザイナーから1925年に映画「快楽の園」で長編監督デビューし、「下宿人」「ダイヤルMを廻せ!」「北北西に進路を取れ」「サイコ」「鳥」「めまい」…などなど多くの名作を生みました。

     

    そして、CGなどのデジタル技術がなかった撮影当時に彼が考案した、観客を惹きつけるための効果的な撮影テクニックは、その後の映画界に大きな影響を与えています。

    最も有名なのは、「めまいショット」と呼ばれるドリーズーム。その呼び名の通り、ヒッチコックが1958年に撮った作品「めまい」で編み出した技法で、高所恐怖症の主人公が高い場所から下を見た時の恐怖心を表現しています。これは、カメラレンズをズームインさせながら、カメラ自体は被写体から引き離す(ドリーアウトさせる)ことで、被写体のサイズが変わることなく背景だけがどんどん広くなっていくという映像が撮影できるテクニックです。逆に、カメラ自体を被写体に近づけていくことで背景だけを狭くしていくこともできます。このめまいショットは、スティーヴン・スピルバーグも「ジョーズ」や「E.T.」で使用し、現在では定番の撮影技法となりました。

    また、ヒッチコックは1927年の無声映画「下宿人」でも、当時では斬新な撮影方法をしています。それは1階の住人が2階の謎の住人の

    足音に不安を覚えるシーン。足音を聞く1階の住人が天井を見上げると、天井からぶら下がる電灯が揺れるのと同時に、真下から見た上の

    住人の歩く姿がオーバーラップされるのです。これは、俳優をガラスの板で歩かせて撮影したのだそう。無声映画で音が表現できない

    かわりに、映像で足音の恐怖を表現しています。

     

    どちらも、様々なデジタル技術が使われている現代の作品を観慣れていると、スゴさを感じにくいかもしれません。しかし、当時は大変

    画期的だった技法。

    CG技術が駆使された作品も素晴らしいですが、たまには昔の作品を観て、デジタル技術や予算がない中で生まれた撮影テクニックの

    素晴らしさを感じてみるのも良いかもしれませんよ。