VR映像制作と認知症

     

    VRというと、リアルなゲームや、面白かったりスリルを味わう体験が出来る楽しいもの、またはアダルト作品などを臨場感たっぷりに視聴できるもの、というような印象が強いかと思います。ところが、VRはそういう娯楽だけではなく、認知症への理解を深めるための手助けにもなっているのです。

    (VRとは仮想現実の事で、HMDなどの機器を装着し、コンピュータで作られた三次元空間を本当にその場にいるような感覚で体験できるもの。)

     

    認知症の人にとって世界がどう見えているのか、どんな感覚なのか、疑似体験できる映像ソフト「VR認知症」がいま話題になっています。このVR映像で疑似体験をすることで、認知症を重い記憶障害だとする思い込みを無くし、正しい認識を持って認知症の患者に向き合うために有益なソフトです。

    VR映像の舞台は、自宅、街、介護施設、電車や駅などなど。では、どんな映像を体験できるのでしょうか。

    例えば、「幻視」という実際にはそこに存在しないものが見えてしまう症状を疑似体験するため、自宅の不自然な所に見知らぬ人間が

    居たり、テーブルの上で蛇が蠢いていたり…。

    または、「視空間失認」という空間認知能力に問題のある症状を疑似体験するため、まずはビルの屋上で下を見ながら周りの人に

    「降りますよ~」と促されるも足がすくんでしまう映像があってから、それが本当はただデイサービスの車から降りるところだったのだと

    わかるものも。

    認知症の患者は、家の中でも常に落ち着けずに過ごしているのかもしれないし、車から降りるだけでも感覚的には決死の思いかも

    しれないのです。

     

    そういったVR映像は、認知症を患う本人とその家族や介護者たちからの証言を参考にして作られています。脚本や監修を担当している

    スタッフの中には、自身も若年性認知症の患者である方も。そのため、非常にリアルで、認知症についての今まではわからなかった

    事への理解につながります。

     

    全国いろんな所で開催されているこのVR映像の体験会には、1年で1万人以上が参加しているのだそう。介護職の方々や患者の

    家族だけでなく、中学校や高校でも開催されています。

    決して人ごとではない認知症への正しい理解が、多くの人・世代に広まっています。「映像」の活躍により認知症を患う人が嫌な思いを

    しない世の中になる日も、近いかもしれませんね。