こんにちは。大石ちゃんこです。
もし映画監督に生まれ変わったらこういう映画を撮れる人になりたい!
と思っている大好きな映画『愛おしき隣人』について書くタイミングを見計らっていたら、同じ監督の最新作が公開されたので
そちらの感想にしてみました。
この映画、観ました?
ロイ・アンダーソン監督 「さよなら、人類」
★★★★☆ 4点
面白グッズを売り歩く冴えないセールスマン、サムとヨナタンの目を通して映し出される
ブラックでシュールなエピソードの数々を、絵画のような39シーンで語った作品。
第71回ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞。
冒頭で書いた『愛おしき隣人』と同様、全てのシーンがスタジオのセットで、固定カメラで、1シーン1カットで撮影されています。
それだけ聞くと退屈な撮り方のように思われるかもしれないのですが、ロイ・アンダーソン監督の作品は
それがとても絶妙でステキなのです。
計算されたカメラのアングルも人や物の配置も素晴らしくて、登場人物たちの悲喜こもごもを
哲学的かつ面白く描き、観客をシュールな世界に迷い込ませるには
これしかない!という撮り方だと思います。
監督がパンフレットのインタビューで「抽象を濃縮し、精製し、単純化する。
各シーンは記憶や夢のように浄化された状態で現れなければならない。」と仰っていてものすごく腑に落ちました。
(蛍光ペンで線まで引いちゃいました)。
初めて監督の作品を観てから、その画作りの特徴を表す端的な言葉をずっと思いつけずにいたのですが、
そうだ!「浄化された状態」だ!
と思いました。
といっても、小難しいとか
芸術的なだけの作品では決してなく、
笑えて、人生を愛おしく感じるシーンが
たくさんあります。
映画館でもみんな声出して笑っていました。
作品の冒頭で立て続けに描かれる「死との出会い」その1~3のシーンでは、人が死んでるというのに笑えます。
もちろん、死を軽視したり嘲笑しているわけではありません。
「死と幸せ」もしくは「死と笑い」って隣り合わせなんだなと感じるシーンです。
私は数ヶ月前に父を亡くしたのですが、父の死に立ち会ってまさに一番思ったのが、“死の周りにも笑いってあるんだな”
ってことでした。
闘病の末に亡くなっていく父の側で、父のつけている機器が表す謎の数値が何なのかわからず皆で笑ってしまったり、
私達子供の「お父さん!」という呼びかけにつられて母も「お父さん!」と呼びかけてしまって、
お母さんは「お父さん!」じゃないでしょ、みたいな雰囲気になって皆で笑ってしまったり等、
確実に死と笑いが同居していたのです。
私は泣きながらも、これが生きているって事なんだろうな、
なんて思っていました。
この作品を見ると、この監督は全ての人の全ての人生を愛しているのだな、と思えるでしょう。
しかしその反面、戦争、差別、権力などに対する圧倒的な嫌悪も表現しています。
意気揚々と戦地に行った兵士や馬がボロボロになって帰ってくるシーンや、
植民者が奴隷たちを銅のシリンダーに追い込んで火をつけ、シリンダーに付けられたラッパの先端から
奴隷たちの叫び声が美しい音楽として流れるシーン、そしてそれを鑑賞する金持ち達のシーンなど、
淡々と描きながらも強い主張を感じるシーンがありました。
ちなみに、上記の奴隷音楽のシーンは#13で扱った『バロン』に出てくる拷問パイプオルガンにも通じるものがありますので
そちらも観てみてください。
映画のラストは、前作『愛おしき隣人』と同じく人々が空を見上げるシーンで終わります。
あの人達は一体何を見ていたのでしょうか。
前作では戦闘機でしたが、今回はできれば、原題にも出てくる鳩(=精霊の象徴)だったら良いな、なんて思います。
スピーディーにカットが変わるような作品とは違う、不思議で心地良いクセになる感覚が味わえる映画です。
ぜひ!
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