こんにちは。大石依里香です。
今回は、女性が一切出てこないという男臭さと、人間のどす黒さを表しているかのような
ドロドロした石油が映るたび観てるだけなのに石油臭さも感じてしまう作品の感想です。
この映画、観ました? #59
ポール・トーマス・アンダーソン監督 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2008年)
★★★★☆ 4点
20世紀初頭。野心家な男ダニエルは孤児を自分の息子H.W.として連れ歩く山師。
ある日見知らぬ青年から自分の故郷の土地に油田があるはずだと聞いた彼は、西部の町リトル・ボストンへ行き
土地を買い占め採掘を開始。
しかし、青年の双子の兄でカリスマ牧師のイーライがダニエルへの警戒を強めていき…というお話。
石油王の成功や破滅を描いた人間ドラマです。
この作品は、友人が選んでくれて今回初めて鑑賞。
こんなに男臭い感じの作品は自分では選んで観る事なんて無いので、良いきっかけでした。
観る前は158分という時間も心配でしたが、面白いので長くは感じず、のめり込んで観てしまいました。
石油のどす黒くてドロドロしている感じが、人間の欲やエゴや怒りや嫉妬などをイメージしているようで、
作品のテーマにとても合っていたと思います。
ドロドロした石油が映る度に、そういう人間のどす黒い部分を見せられているようでウエッとなったりもしましたが。
主人公のダニエルは強欲で野心家で、石油を掘り当てた際の爆発炎上事故で愛する息子が聴力を失い混乱していても、
それを置いて石油のこと考えてニヤリとしていたり、容赦ない土地の買い上げを遂行したりと、やってる事だけ見ると嫌な奴。
でも、なぜか魅力的で、人間らしさを感じて憎めない人物に思えてしまうんですよね。石油の金儲けは器用だけど人間関係は不器用で。
の主人公フレディも、粗暴なのになぜか憎めない
という点では共通するものがあると思います。
強欲なダニエルの最終目標は、「じゅうぶん金を稼いだら、誰もいないところへ行きたい」とのこと。
彼の闇とは程度が違うものの、私ももし莫大なお金を持ったら将来は一人で小学生の時から録りためている
お笑い番組のVHSやDVDを毎日見て過ごしたい、と夢見ているので、恥ずかしながら少しは理解できます。
「人間の暗部が見える/邪悪な部分が透けて見える」というダニエルにとっては、石油事業にまつわる多くの交渉や雇用など
色んな他者と関わる事から実は早く抜け出したかったんでしょうかね。
そんな人嫌いなダニエルが強烈な嫌悪感を抱いている人間が、「第三の啓示」教会とかいう胡散臭い新興宗教の
カリスマ牧師・イーライ。
彼も、方向性は違うもののダニエルと同じくらい欲深いです。
ダニエルは目に見える「石油とお金」を使って、イーライは目に見えない「神や信仰」を使って、自分の野望を実現しようとします。
2人がやり合う2つのシーンは、すごい迫力でかなり見ごたえがあります。
一つはダニエルが事業を進めるために仕方なく教会で洗礼を受ける屈辱的なシーン。
そしてラストの、隠居中のダニエルの自宅でのシーン。
ダニエル・デイ=ルイスとポール・ダノの演技が迫真です。
ちなみに、イーライ役のポール・ダノは『リトル・ミス・サンシャイン』でのニーチェに傾倒するぶっとんだ兄役のイメージが強かったので
なんだか少ししっくりきてしまいました。
ラストシーンでダニエルがつぶやく「I’m finished.」という言葉も強烈です。
ダニエルは、冒頭の貧乏時代からずっと、自分の全身を使って、心をすり減らして、体中真っ黒になりながら石油王になりました。
それに対してイーライは、体を汚すわけでもなく、危険な目に遭うわけでもなく、目に見えない、本当は存在しないようなものを使って
上辺の言葉だけで人々にウソをついて信仰させて欲望を満たそうとしている人物。
そんな彼は、ダニエルにとってはどうしても許せない存在だったのだと思います。
まだ彼をぶちのめしていないという事がずっとひっかかっていたんでしょうね。
また、一見被害者みたいに見える村の住民たちも、視点を変えたら、長年「作物が出来ない土地だから~」と言い訳し続けるだけで、
村の発展の為に何もしてない人達なんですよね。
ダニエルはそんな住人達にも嫌悪感を抱いていたのかもしれません。
自分しか信じてこない人生を送ってきた石油王が
どうやって「終わった」のか、観てみてほしいです。
ぜひ!!!
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